いう六字を誰にも一枚ずつ書かした。「市《いっ》さんも書いて上げて下さい」と云って、須永《すなが》の前へ来た。「どうするんだい」と聞いた須永は、不思議そうに筆と紙を受取った。
「細かい字で書けるだけ一面に書いて下さい。後《あと》から六字ずつを短冊形《たんざくがた》に剪《き》って棺《かん》の中へ散らしにして入れるんですから」
皆《みん》な畏《かし》こまって六字の名号《みょうごう》を認《した》ためた。咲子は見ちゃ厭《いや》よと云いながら袖屏風《そでびょうぶ》をして曲りくねった字を書いた。十一になる男の子は僕は仮名で書くよと断わって、ナムアミダブツと電報のようにいくつも並べた。午過《ひるすぎ》になっていよいよ棺に入れるとき松本は千代子に「御前着物を着換さしておやりな」と云った。千代子は泣きながら返事もせずに、冷たい宵子を裸にして抱《だ》き起した。その背中には紫色《むらさきいろ》の斑点が一面に出ていた。着換が済むと御仙が小さい珠数《じゅず》を手にかけてやった。同じく小さい編笠《あみがさ》と藁草履《わらぞうり》を棺に入れた。昨日《きのう》の夕方まで穿《は》いていた赤い毛糸の足袋《たび》も入れた。
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