ったという心細い感じに打たれた。彼らは代る代る線香を上げた。その煙の香《におい》が、二時間前とは全く違う世界に誘《いざ》ない込まれた彼らの鼻を断えず刺戟《しげき》した。ほかの子供は平生の通り早く寝かされた後《あと》に、咲子《さきこ》という十三になる長女だけが起きて線香の側《そば》を離れなかった。
「御前も御寝《おね》よ」
「まだ内幸町からも神田からも誰も来ないのね」
「もう来るだろう。好いから早く御寝」
咲子は立って廊下へ出たが、そこで振り回《かえ》って、千代子を招いた。千代子が同じく立って廊下へ出ると、小さな声で、怖《こわ》いからいっしょに便所《はばかり》へ行ってくれろと頼んだ。便所には電灯が点《つ》けてなかった。千代子は燐寸《マッチ》を擦《す》って雪洞《ぼんぼり》に灯《ひ》を移して、咲子といっしょに廊下を曲った。帰りに下女部屋を覗《のぞ》いて見ると、飯焚《めしたき》が出入《でいり》の車夫と火鉢《ひばち》を挟《はさ》んでひそひそ何か話していた。千代子にはそれが宵子の不幸を細かに語っているらしく思われた。ほかの下女は茶の間で来客の用意に盆を拭いたり茶碗を並べたりしていた。
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