拵《こし》らえてくれる約束をした。それから手を鳴らして、停留所に松本を待ち合わせていた方の姉娘を呼んで、これが私《わたし》の娘だとわざわざ紹介した。そうしてこの方《かた》は市《いっ》さんの御友達だよと云って敬太郎を娘に教えていた。娘は何でこういう人に引き合されるのか、ちょっと解《かい》しかねた風をしながら、極《きわ》めてよそよそしく叮嚀《ていねい》な挨拶《あいさつ》をした。敬太郎が千代子という名を覚えたのはその時の事であった。
これが田口の家庭に接触した始めての機会になって、敬太郎はその後《ご》も用事なり訪問なりに縁を藉《か》りて、同じ人の門を潜る事が多くなった。時々は玄関脇の書生部屋へ這入《はい》って、かつて電話で口を利《き》き合った事のある書生と世間話さえした。奥へも無論通る必要が生じて来た。細君に呼ばれて内向《うちむき》の用を足す場合もあった。中学校へ行く長男から英語の質問を受けて窮する事も稀《まれ》ではなかった。出入《でいり》の度数がこう重なるにつれて、敬太郎が二人の娘に接近する機会も自然多くなって来たが、一種|間《ま》の延びた彼の調子と、比較的引き締《しま》った田口の家風と
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