気があり過ぎるからだと調戯《からか》い出した。敬太郎はそのたびに「馬鹿云え」で通していたが、心の内ではいつも、須永の門前で見た後姿の女を思い出した。その女がとりも直さず停留所の女であった事も思い出した。そうしてどこか遠くの方で気恥かしい心持がした。その女の名が千代子《ちよこ》で、その妹の名が百代子《ももよこ》である事も、今の敬太郎には珍らしい報知ではなかった。
 彼が松本に会って、すべて内幕の消息を聞かされた後《あと》、田口へ顔を出すのは多少きまりの悪い思をするだけであったにかかわらず、顔を出さなければ締《し》め括《くく》りがつかないという行きがかりから、笑われるのを覚悟の前で、また田口の門を潜《くぐ》った時、田口ははたして大きな声を出して笑った。けれどもその笑の中《うち》には己《おの》れの機略に誇る高慢の響よりも、迷った人を本来の路《みち》に返してやった喜びの勝利が聞こえているのだと敬太郎には解釈された。田口はその時訓戒のためだとか教育の方法だとかいった風の、恩に着せた言葉をいっさい使わなかった。ただ悪意でした訳でないから、怒《おこ》ってはいけないと断わって、すぐその場で相当の位置を
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