《き》くと同じような感じを敬太郎に与えるだけなので、彼はただその人の本体を髣髴《ほうふつ》するに苦しむに過ぎなかった。彼が一方では明瞭《めいりょう》な松本の批評に心服しながら、一方では松本の何者なるかをこういう風に考えつつ、自分は頭脳の悪い、直覚の鈍い、世間並以下の人物じゃあるまいかと疑り始めた時、この漠然《ばくぜん》たる松本がまた口を開いた。
「それでも田口が箆棒《べらぼう》をやってくれたため、君はかえって仕合《しあわせ》をしたようなものですね」
「なぜですか」
「きっと何か位置を拵《こし》らえてくれますよ。これなりで放っておきゃ田口でも何でもありゃしない。それは責任を持って受合って上げても宜《い》い。が、つまらないのは僕だ。全く探偵のされ損だから」
 二人は顔を見合せて笑った。敬太郎が丸い更紗《さらさ》の座蒲団《ざぶとん》の上から立ち上がった時、主人はわざわざ玄関まで送って出た。そこに飾ってあった墨絵の鶴の衝立《ついたて》の前に、瘠《や》せた高い身体《からだ》をしばらく佇《たた》ずまして、靴を穿《は》く敬太郎の後姿《うしろすがた》を眺《なが》めていたが、「妙な洋杖《ステッキ》を持っ
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