て行って参りましょう。その模様でまた伺がう事に致しますから」と云いながら、柔《やわら》かい座蒲団《ざぶとん》の上を滑《すべ》り下りた。田口は「どうも御苦労でした」と叮嚀《ていねい》に挨拶《あいさつ》しただけで、ロマンチックもコスメチックもすっかり忘れてしまったという顔つきをして立ち上った。
敬太郎は帰り途に、今会った田口と、これから会おうという松本と、それから松本を待ち合わした例の恰好《かっこう》のいい女とを、合せたり離したりしてしきりにその関係を考えた。そうして考えれば考えるほど一歩ずつ迷宮《メーズ》の奥に引き込まれるような面白味を感じた。今日《きょう》田口での獲物《えもの》は松本という名前だけであるが、この名前がいろいろに錯綜《さくそう》した事実を自分のために締《し》め括《くく》っている妙な嚢《ふくろ》のように彼には思えるので、そこから何が出るか分らないだけそれだけ彼には楽みが多かった。田口の説明によると、近寄|悪《にく》い人のようにも聞こえるが、彼の見たところでは田口より数倍話しがしやすそうであった。彼は今日田口から得た印象のうちに、人を取扱う点にかけてなるほど老練だという嘆美
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