という大きな世界があまり判切《はっきり》分らない代りに、男女という小さな宇宙はかく鮮《あざ》やかに映った。したがって彼は大抵の社会的関係を、できるだけこの一点まで切落して楽んでいた。停留所で逢った二人の関係も、敬太郎の気のつかない頭の奥では、すでにこういう一対《いっつい》の男女として最初から結びつけられていたらしかった。彼はまたその背後に罪悪を想像して要もないのに恐れを抱《いだ》くほどの道徳家でもなかった。彼は世間並な道義心の所有者としてありふれた人間の一人《いちにん》であったけれども、その道義心は彼の空想力と違って、いざという場合にならなければ働らかないのを常とするので、停留所の二人を自分に最も興味のある男女関係に引き直して見ても、別段不愉快にはならずにすんだのである。彼はただ年齢《とし》の上において二人の相違の著るしいのを疑ぐった。が、また一方ではその相違がかえって彼の眼に映ずる「男女の世界」なるものの特色を濃く示しているようにも見えた。
 彼の二人に対する心持は知らず知らずの間にこう弛《ゆる》んでいたのだが、いよいよそうかと正式に田口から質問を掛けられて見ると、断然とした返答は、
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