うとするなら、どうしても一足先へ出て、相手に気のつかない物陰か何かで、待ち合せるよりほかに仕方がないと考えた。敬太郎は早く勘定を済ましておくに若《し》くはないという気になって、早速|給仕《ボーイ》を呼んでビルを請求した。
男と女はまだ落ちついて話していた。しかし二人の間に何というきまった題目も起らないので、それを種に意見や感情の交換《とりやり》も始まる機会《おり》はなく、ただだらしのない雲のようにそれからそれへと流れて行くだけに過ぎなかった。男の特徴に数えられた眉《まゆ》と眉の間の黒子《ほくろ》なども偶然女の口に上《のぼ》った。
「なぜそんな所に黒子なんぞができたんでしょう」
「何も近頃になって急にできやしまいし、生れた時からあるんだ」
「だけどさ。見っともなかなくって、そんな所《とこ》にあって」
「いくら見っともなくっても仕方がないよ。生れつきだから」
「早く大学へ行って取って貰うといいわ」
敬太郎はこの時|指洗椀《フィンガーボール》の水に自分の顔の映るほど下を向いて、両手で自分の米噛《こめかみ》を隠すように抑《おさ》えながら、くすくすと笑った。ところへ給仕が釣銭を盆に乗せて持っ
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