《たっ》とい、また大変珍らしい、今時そう容易《たやす》くは手に入らない時代のついた珠《たま》を、女が男から貰《もら》う約束をしたという事が解った。
「やるにはやるが、御前あんなものを貰って何《なん》にする気だい」
「あなたこそ何になさるの。あんな物を持ってて、男の癖に」

        三十四

 しばらくして男は「御前御菓子を食べるかい、菓物《くだもの》にするかい」と女に聞いた。女は「どっちでも好いわ」と答えた。彼らの食事がようやく終りに近づいた合図とも見られるこの簡単な問答が、今までうっかりと二人の話に釣り込まれていた敬太郎《けいたろう》に、たちまち自分の義務を注意するように響いた。彼はこの料理屋を出た後《あと》の二人の行動をも観察する必要があるものとして、自分で自分の役割を作っていたのである。彼は二人と同時に二階を下りる事の不得策を初めから承知していた。後《おく》れて席を立つにしても、巻煙草《まきたばこ》を一本吸わない先に、夜と人と、雑沓《ざっとう》と暗闇《くらやみ》の中に、彼らの姿を見失なうのはたしかであった。もし間違いなく彼らの影を踏んで後《あと》から喰付《くっつ》いて行こ
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