出した。この間卒業して以来足を擂木《すりこぎ》のようにして世の中への出口を探して歩いている敬太郎に会うたびに、彼らはどうだね蛸狩は成功したかいと聞くのが常になっていたくらいである。
南洋の蛸狩はいかな敬太郎にもちと奇抜《きばつ》過ぎるので、真面目《まじめ》に思い立つ勇気も出なかったが、新嘉坡《シンガポール》の護謨林《ゴムりん》栽培などは学生のうちすでに目論《もくろ》んで見た事がある。当時敬太郎は、果《はて》しのない広野《ひろの》を埋《う》め尽す勢《いきおい》で何百万本という護謨の樹が茂っている真中に、一階建のバンガローを拵《こしら》えて、その中に栽培監督者としての自分が朝夕《あさゆう》起臥《きが》する様を想像してやまなかった。彼はバンガローの床《ゆか》をわざと裸にして、その上に大きな虎の皮を敷くつもりであった。壁には水牛の角を塗り込んで、それに鉄砲をかけ、なおその下に錦の袋に入れたままの日本刀を置くはずにした。そうして自分は真白なターバンをぐるぐる頭へ巻きつけて、広いヴェランダに据《す》えつけてある籐椅子《といす》の上に寝そべりながら、強い香《かおり》のハヴァナをぷかりぷかりと鷹揚《
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