出した。敬太郎も壺入《つぼいり》のビスケットを見棄ててその後《あと》に従がった。二人は淡路町《あわじちょう》まで来てそこから駿河台下《するがだいした》へ抜ける細い横町を曲った。敬太郎も続いて曲ろうとすると、二人はその角にある西洋料理屋へ入った。その時彼はその門口《かどぐち》から射す強い光を浴びた男と女の顔を横から一眼見た。彼らが停留所を離れる時、二人連れ立ってどこへ行くだろうか、敬太郎にはまるで想像もつかなかったのだが、突然こんな家《うち》へ入《は》いられて見ると、何でもない所だけに、かえって案外の感に打たれざるを得なかった。それは宝亭《たからてい》と云って、敬太郎の元から知っている料理屋で、古くから大学へ出入《でいり》をする家《うち》であった。近頃|普請《ふしん》をしてから新らしいペンキの色を半分電車通りに曝《さら》して、斜《はす》かけに立ち切られたような棟《むね》を南向に見せているのを、彼は通り掛りに時々注意した事がある。彼はその薄青いペンキの光る内側で、額に仕立てたミュンヘン麦酒《ビール》の広告写真を仰ぎながら、肉刀《ナイフ》と肉叉《フォーク》を凄《すさ》まじく闘かわした数度《す
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