た。そうしてその表情の変化にまた驚ろかされた。今まで後姿《うしろすがた》を眺《なが》めて物陰にいた時は、彼女を包む一色《ひといろ》の目立たないコートと、その背の高さと、大きな廂髪《ひさしがみ》とを材料に、想像の国でむしろ自由過ぎる結論を弄《もて》あそんだのだが、こうして彼女の知らない間に、その顔を遠慮なく眺めて見ると、全く新らしい人に始めて出逢ったような気がしない訳に行かなかった。要するに女は先刻より大変若く見えたのである。切に何物かを待ち受けているその眼もその口も、ただ生々《いきいき》した一種|華《はな》やかな気色《きしょく》に充《み》ちて、それよりほかの表情は毫《ごう》も見当らなかった。敬太郎はそのうちに処女の無邪気ささえ認めた。
やがて女の見つめている方角から一台の電車が弓なりに曲った線路を、ぐるりと緩《ゆる》く廻転して来た。それが女のいる前で滑《すべ》るようにとまった時、中から二人の男が出た。一人は紙で包んだボール箱のようなものを提《さ》げて、すたすた巡査の前を通り越して人道へ飛び上がったが、一人は降りると直《すぐ》に女の前に行って、そこに立ちどまった。
三
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