身に着けたものの内で、わずかに人の注意を惹《ひ》くのは頸《くび》の周囲《まわり》を包む羽二重《はぶたえ》の襟巻だけであるが、それはただ清いと云う感じを起す寒い色に過ぎなかった。あとは冬枯の空と似合った長いコートですぽりと隠していた。
敬太郎は年に合わして余りに媚《こ》びる気分を失い過ぎたこの衣服《なり》を再び後《うしろ》から見て、どうしてもすでに男を知った結果だと判じた。その上この女の態度にはどこか大人《おとな》びた落ちつきがあった。彼はその落ちつきを品性と教育からのみ来た所得とは見傚《みな》し得なかった。家庭以外の空気に触れたため、初々《ういうい》しい羞恥《はにかみ》が、手帛《ハンケチ》に振りかけた香水の香《か》のように自然と抜けてしまったのではなかろうかと疑ぐった。そればかりではない、この女の落ちつきの中には、落ちつかない筋肉の作用が、身体《からだ》全体の運動となったり、眉《まゆ》や口の運動となって、ちょいちょい出て来るのを彼は先刻《さっき》目撃した。最も鋭敏に動くものはその眼であろうと彼は疾《と》くに認めていた。けれどもその鋭敏に動こうとする眼を、強《し》いて動かすまいと力《つ
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