その時|敬太郎《けいたろう》の頭に、この女は処女だろうか細君だろうかという疑が起った。女は現代多数の日本婦人にあまねく行われる廂髪《ひさしがみ》に結《い》っているので、その辺の区別は始めから不分明《ふぶんみょう》だったのである。が、いよいよ物陰に来て、半《なかば》後《うしろ》になったその姿を眺めた時は、第一番にどっちの階級に属する人だろうという問題が、新たに彼を襲《おそ》って来た。
 見かけからいうとあるいは人に嫁《とつ》いだ経験がありそうにも思われる。しかし身体《からだ》の発育が尋常より遥《はる》かに好いからことによれば年は存外取っていないのかも知れない。それならなぜあんな地味な服装《つくり》をしているのだろう。敬太郎は婦人の着る着物の色や縞柄《しまがら》について、何をいう権利も有《も》たない男だが、若い女ならこの陰鬱《いんうつ》な師走《しわす》の空気を跳《は》ね返すように、派出《はで》な色を肉の上に重ねるものだぐらいの漠《ばっ》とした観察はあったのである。彼はこの女が若々しい自分の血に高い熱を与える刺戟性《しげきせい》の文《あや》をどこにも見せていないのを不思議に思った。女の
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