在をわざと眼中に置かないようなこの眼遣《めづかい》の底に、かえって自分が気にかかっているらしい反証を得たと信じた。彼が先刻から蚤取眼《のみとりまなこ》で、黒の中折帽を被《かぶ》った紳士を探している間、この女は彼と同じ鋭どい注意を集めて、観察の矢を絶えずこっちに射《い》がけていたのではなかろうか。彼はある男を探偵しつつ、またある女に探偵されつつ、一時間|余《あまり》をここに過ごしたのではなかろうか。けれどもどこの何物とも知れない男の、何をするか分らない行動を、何のために探るのだか、彼には何らの考《かんがえ》がなかったごとく、どこの何物とも知れない女から何を仕出《しで》かすか分らない人として何のために自分が覘《ねら》われるのだか、そこへ行くとやはりまるで要領を得なかった。敬太郎はこっちで少し歩き出して見せたら向うの様子がもっと鮮明に分るだろうという気になって、そろりそろりと派出所の後《うしろ》を西の方へ動いて行った。もちろん女に勘づかれないために、彼は振向いて後を見る動作を固く憚《はば》かった。けれどもいつまでも前ばかり見て先へ行っては、肝心《かんじん》の目的を達する機会がないので、彼は十
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