覚悟をした。洋杖は自分の馬鹿を嘲《あざ》ける記念《かたみ》だから、帰りがけに人の見ていない所で二つに折って、蛇の頭も鉄の輪の突がねもめちゃめちゃに、万世橋から御茶の水へ放り込んでやろうと決心した。
彼はすでに動こうとして一歩足を移しかけた時、また先刻《さっき》の若い女の存在に気がついた。女はいつの間にか宝石商の窓を離れて、元の通り彼から一間ばかりの所に立っていた。背が高いので、手足も人尋常《ひとなみ》より恰好《かっこう》よく伸びたところを、彼は快よく始めから眺めたのだが、今度はことにその右の手が彼の心を惹《ひ》いた。女は自然のままにそれをすらりと垂れたなり、まるで他の注意を予期しないでいたのである。彼は素直に調子の揃《そろ》った五本の指と、しなやかな革《かわ》で堅く括《くく》られた手頸《てくび》と、手頸の袖口《そでくち》の間から微《かす》かに現われる肉の色を夜の光で認めた。風の少ない晩であったが、動かないで長く一所《ひとところ》に立ち尽すものに、寒さは辛《つら》く当った。女は心持ち顋《あご》を襟巻《えりまき》の中に埋《うず》めて、俯目勝《ふしめがち》にじっとしていた。敬太郎は自分の存
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