もりなので、いつどっちから歩き寄ったか分らない婦人を思わぬ近くに見た時は、何より先にまずその存在に驚ろかされた。
二十七
女は年に合わして地味なコートを引き摺《ず》るように長く着ていた。敬太郎《けいたろう》は若い人の肉を飾る華麗《はなやか》な色をその裏に想像した。女はまたわざとそれを世間から押し包むようにして立っていた。襦袢《じゅばん》の襟《えり》さえ羽二重《はぶたえ》の襟巻《えりまき》で隠していた。その羽二重の白いのが、夕暮の逼《せま》るに連れて、空気から浮き出して来るほかに、女は身の周囲《まわり》に何といって他《ひと》の注意を惹《ひ》くものを着けていなかった。けれども時節柄《じせつがら》に頓着《とんじゃく》なく、当人の好尚《このみ》を示したこの一色《ひといろ》が、敬太郎には何よりも際立《きわだ》って見えた。彼は光の抜けて行く寒い空の下で、不調和な異《い》な物に出逢った感じよりも、煤《すす》けた往来に冴々《さえざえ》しい一点を認めた気分になって女の頸《くび》の辺《あたり》を注意した。女は敬太郎の視線を正面《まとも》に受けた時、心持|身体《からだ》の向《むき》を変
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