で無作法に演じ出す一分時《いっぷんじ》の争を何度となく見た。けれども彼の目的とする黒の中折の男はいくら待っても出て来なかった。ことに依ると、もうとうに西の停留所から降りてしまったものではなかろうかと思うと、こうして役にも立たない人の顔ばかり見つめて、眼のちらちらするほど一つ所に立っているのは、随分馬鹿気た所作《しょさ》に見えて来る。敬太郎は下宿の机の前で熱に浮かされた人のように夢中で費やした先刻《さっき》の二時間を、充分|須永《すなが》と打ち合せをして彼の援助を得るために利用した方が、遥《はる》かに常識に適《かな》った遣口《やりくち》だと考え出した。彼がこの苦《にが》い気分を痛切に甞《な》めさせられる頃から空はだんだん光を失なって、眼に映る物の色が一面に蒼《あお》く沈んで来た。陰鬱《いんうつ》な冬の夕暮を補なう瓦斯《ガス》と電気の光がぽつぽつそこらの店硝子《みせガラス》を彩《いろ》どり始めた。ふと気がついて見ると、敬太郎から一間ばかりの所に、廂髪《ひさしがみ》に結《い》った一人の若い女が立っていた。電車の乗降《のりおり》が始まるたびに、彼は注意の余波《なごり》を自分の左右に払っていたつ
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