えた。それでもなお落ちつかない様子をして、右の手を耳の所まで上げて、鬢《びん》から洩《も》れた毛を後《うしろ》へ掻きやる風をした。固《もと》より女の髪は綺麗《きれい》に揃《そろ》っていたのだから、敬太郎にはこの挙動が実《み》のない科《しな》としてのみ映ったのだが、その手を見た時彼はまた新たな注意を女から強いられた。
女は普通の日本の女性《にょしょう》のように絹の手袋を穿《は》めていなかった。きちりと合う山羊《やぎ》の革製ので、華奢《きゃしゃ》な指をつつましやかに包んでいた。それが色の着いた蝋《ろう》を薄く手の甲に流したと見えるほど、肉と革がしっくりくっついたなり、一筋の皺《しわ》も一分《いちぶ》の弛《たる》みも余していなかった。敬太郎は女の手を上げた時、この手袋が女の白い手頸《てくび》を三寸も深く隠しているのに気がついた。彼はそれぎり眼を転じてまた電車に向った。けれども乗降《のりおり》の一混雑が済んで、思う人が出て来ないと、また心に二三分の余裕《よゆう》ができるので、それを利用しようと待ち構えるほどの執着はなかったにせよ、電車の通り越した相間《あいま》相間には覚《さと》られないくらい
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