登ったから驚ろいたなどという。そこへ御参《おまいり》をするには、どんなに脚《あし》の達者なものでも途中で一晩明かさなければならないので、森本も仕方なしに五合目あたりで焚火《たきび》をして夜の寒さを凌《しの》いでいると、下から鈴《れい》の響が聞えて来たから、不思議に思っているうちに、その鈴の音《ね》がだんだん近くなって、しまいに座頭《ざとう》が上《のぼ》って来たんだと云う。しかもその座頭が森本に今晩はと挨拶《あいさつ》をしてまたすたすた上って行ったと云うんだから、余り妙だと思ってなおよく聞いて見ると、実は案内者が一人ついていたのだそうである。その案内者の腰に鈴を着けて、後《あと》から来る盲者《めくら》がその鈴の音を頼りに上る事ができるようにしてあったのだと説明されて、やや納得《なっとく》もできたが、それにしても敬太郎には随分意外な話である。が、それがもう少し高《こう》じると、ほとんど妖怪談《ようかいだん》に近い妙なものとなって、だらしのない彼の口髭《くちひげ》の下から最も慇懃《いんぎん》に発表される。彼が耶馬渓《やばけい》を通ったついでに、羅漢寺《らかんじ》へ上って、日暮に一本道を急いで
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