が》めると、まだ一時を打ったばかりである。四時より三十分前に向《むこう》へ着くとしたところで、三時頃から宅《うち》を出ればたくさんなのだから、まだ二時間の猶予《ゆうよ》がある。彼はこの二時間を最も有益に利用するつもりで、じっとしたまま坐っていた。けれどもただ眼の前に、美土代町《みとしろちょう》と小川町が、丁字《ていじ》になって交叉している三つ角の雑沓《ざっとう》が入り乱れて映るだけで、これと云って成功を誘《いざな》うに足る上分別《じょうふんべつ》は浮ばなかった。彼の頭は考えれば考えるほど、同じ場所に吸いついたなりまるで動くことを知らなかった。そこへ、どうしても目指す人には会えまいという掛念《けねん》が、不安を伴って胸の中をざわつかせた。敬太郎はいっその事時間が来るまで外を歩きつづけに歩いて見ようかと思った。そう決心をして、両手を机の縁《ふち》に掛けて、勢よく立ち上がろうとする途端《とたん》に、この間浅草で占《うら》ないの婆さんから聞いた、「近い内に何か事があるから、その時にはこうこういうものを忘れないようにしろ」という注意を思い出した。彼は婆さんのその時の言葉を、解すべからざる謎《なぞ
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