で、丸の内からただ一筋の電車を利用して、神田橋を出る役人の数《かず》だけでも大したものである。それにほかと違って停留所が小川町だから、年の暮に間もない左右の見世先《みせさき》に、幕だの楽隊だの、蓄音機だのを飾るやら具《そな》えるやらして、電灯以外の景気を点《つ》けて、不時の客を呼び寄せる混雑も勘定《かんじょう》に入れなければなるまい。それを想像して事の成否を考えて見ると、とうてい一人の手際《てぎわ》ではという覚束《おぼつか》ない心持が起って来る。けれどもまた尋ね出そうとするその人が、霜降《しもふり》の外套《がいとう》に黒の中折《なかおれ》という服装《いでたち》で電車を降りるときまって見れば、そこにまだ一縷《いちる》の望があるようにも思われる。無論霜降の外套だけでは、どんな恰好《かっこう》にしろ手がかりになり様《よう》はずがないが、黒の中折を被《かぶ》っているなら、色変りよりほかに用いる人のない今日《こんにち》だから、すぐ眼につくだろう。それを目宛《めあて》に注意したらあるいは成功しないとも限るまい。
こう考えた敬太郎は、ともかくも停留所まで行って見る事だという気になった。時計を眺《な
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