ど下品な料簡《りょうけん》から出るとは限らないという推断もついて見ると、いったん硬直《こうちょく》になった筋肉の底に、また温《あた》たかい血が通《かよ》い始めて、徳義に逆らう吐気《むかつき》なしに、ただ興味という一点からこの問題を面白く眺《なが》める余裕《よゆう》もできてきた。それで世の中に接触する経験の第一着手として、ともかくも田口から依頼された通りにこの仕事をやり終《おお》せて見ようという気になった。彼はもう一度とくと田口の手紙を読み直した。そうしてそこに書いてある特徴と条件だけで、はたして満足な結果が実際に得られるだろうかどうかを確かめた。
二十二
田口から知らせて来た特徴のうちで、本当にその人の身を離れないものは、眉《まゆ》と眉の間の黒子《ほくろ》だけであるが、この日の短かい昨今の、四時とか五時とかいう薄暗い光線の下《もと》で、乗降《のりおり》に忙がしい多数の客の中《うち》から、指定された局部の一点を目標《めじるし》に、これだと思う男を過《あやま》ちなく見つけ出そうとするのは容易の事ではない。ことに四時と五時の間と云えば、ちょうど役所の退《ひ》ける刻限なの
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