たけれども、これだけで帰るのも少し物足りなかった。婆さんの云う事が、まるで自分の胸とかけ隔《へだ》たった別世界の消息なら、固《もと》より論はないが、意味の取り方ではだいぶ自分の今の身の上に、応用の利《き》く点もあるので、敬太郎はそこに微《かす》かな未練を残した。
「もう何にも伺がう事はありませんか」
「そうですね。近い内にちょっとした事ができるかも知れません」
「災難ですか」
「災難でもないでしょうが、気をつけないとやり損《そこ》ないます。そうしてやり損なえばそれっきり取り返しがつかない事です」

        十九

 敬太郎《けいたろう》の好奇心は少し鋭敏になった。
「全体どんな性質《たち》の事ですか」
「それは起って見なければ分りません。けれども盗難だの水難だのではないようです」
「じゃどうして失敗《しくじ》らない工夫をして好いか、それも分らないでしょうね」
「分らない事もありませんが、もし御望みなら、もう一遍|占《うら》ないを立て直して見て上げても宜《よ》うござんす」
 敬太郎は、では御頼み申しますと云わない訳に行かなかった。婆さんはまた繊細《きゃしゃ》な指先を小器用に動かし
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