を湯呑《ゆのみ》に注《つ》いで、香煎《こうせん》を敬太郎の前に出した。そうして昔は薬箱でも載せた棚らしい所に片づけてあった小机を取りおろしにかかった。その机には無地の羅紗《らしゃ》がかけてあったが、婆さんはそれをそのまま敬太郎の正面に据《す》えて、そうして再び故《もと》の座に帰った。
「占《うら》ないは私がするのです」
 敬太郎は意外の感に打たれた。この小《ち》いさい丸髷《まるまげ》に結《ゆ》った。黒繻子《くろじゅす》の襟《えり》のかかった着物の上に、地味な縞《しま》の羽織を着た、一心に縫物をしている、純然家庭的の女が、自分の未来に横たわる運命の予言者であろうとは全く想像のほかにあったのである。その上彼はこの婦人の机の上に、筮竹《ぜいちく》も算木《さんぎ》も天眼鏡《てんがんきょう》もないのを不思議に眺《なが》めた。婆さんは机の上に乗っている細長い袋の中からちゃらちゃらと音をさせて、穴の開《あ》いた銭《ぜに》を九つ出した。敬太郎は始めてこれが看板に「文銭占ない」とある文銭なるものだろうと推察したが、さてこの九枚の文銭が、暗い中で自分を操《あやつ》っている運命の糸と、どんな関係を有《も》っ
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