べる奴《やつ》はなお不都合であるし、できるならば余り人の込み合わない家《うち》で、閑静な髯《ひげ》を生やした爺《じい》さんが奇警《きけい》な言葉で、簡潔にすぱすぱと道《い》い破《やぶ》ってくれるのがどこかにいればいいがと思った。そう思いながら、彼は自分の父がよく相談に出かけた、郷里《くに》の一本寺《いっぽんじ》の隠居の顔を頭の中に描《えが》き出した。それからふと気がついて、考えるんだかただ坐っているんだか分らない自分の様子が馬鹿馬鹿しくなったので、とにかく出てそこいらを歩いてるうちに、運命が自分を誘い込むような占《うら》ない者《しゃ》の看板にぶつかるだろうという漠然《ばくぜん》たる頭に帽子を載《の》せた。
彼は久しぶりに下谷の車坂《くるまざか》へ出て、あれから東へ真直《まっすぐ》に、寺の門だの、仏師屋《ぶっしや》だの、古臭《ふるくさ》い生薬屋《きぐすりや》だの、徳川時代のがらくたを埃《ほこり》といっしょに並べた道具屋だのを左右に見ながら、わざと門跡《もんぜき》の中を抜けて、奴鰻《やっこうなぎ》の角へ出た。
彼は小供の時分よく江戸時代の浅草を知っている彼の祖父《じい》さんから、しばし
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