ると、Aは顔の色を変えて驚ろいた。田口はその前へ坐り込んで、実はこれこれだと残らず自分の悪戯《いたずら》を話した上、「担《かつ》いだ代りに今夜は僕が奢《おご》るよ」と笑いながら云ったんだという。
「こういう飄気《ひょうげ》た真似《まね》をする男なんでございますから」と須永の母も話した後《あと》でおかしそうに笑った。敬太郎はあの自働車はまさか悪戯《いたずら》じゃなかったろうと考えながら下宿へ帰った。

        十四

 自動車事件以後|敬太郎《けいたろう》はもう田口の世話になる見込はないものと諦《あき》らめた。それと同時に須永《すなが》の従弟《いとこ》と仮定された例の後姿《うしろすがた》の正体も、ほぼ発端《ほったん》の入口に当たる浅いところでぱたりと行きとまったのだと思うと、その底にはがゆいようなまた煮切《にえき》らないような不愉快があった。彼は今日《こんにち》まで何一つ自分の力で、先へ突き抜けたという自覚を有《も》っていなかった。勉強だろうが、運動だろうが、その他何事に限らず本気にやりかけて、貫《つら》ぬき終《おお》せた試《ためし》がなかった。生れてからたった一つ行けるところま
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