で行ったのは、大学を卒業したくらいなものである。それすら精を出さずにとぐろばかり巻きたがっているのを、向《むこう》で引き摺《ず》り出してくれたのだから、中途で動けなくなった間怠《まだる》さのない代りには、やっとの思いで井戸を掘り抜いた時の晴々《せいせい》した心持も知らなかった。
彼はぼんやりして四五日過ぎた。ふと学生時代に学校へ招待したある宗教家の談話を思い出した。その宗教家は家庭にも社会にも何の不満もない身分だのに、自《みず》から進んで坊主になった人で、その当時の事情を述べる時に、どうしても不思議でたまらないからこの道に入って見たと云った。この人はどんな朗らかに透《す》き徹《とお》るような空の下に立っても、四方から閉じ込められているような気がして苦しかったのだそうである。樹を見ても家を見ても往来を歩く人間を見ても鮮《あざや》かに見えながら、自分だけ硝子張《ガラスばり》の箱の中に入れられて、外の物と直《じか》に続いていない心持が絶えずして、しまいには窒息《ちっそく》するほど苦しくなって来るんだという。敬太郎はこの話を聞いて、それは一種の神経病に罹《かか》っていたのではなかろうかと疑っ
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