博士問題の成行
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)今日《きょう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)御辞退|相成《あいなり》たき
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ]
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二月二十一日に学位を辞退してから、二カ月近くの今日《きょう》に至るまで、当局者と余《よ》とは何らの交渉もなく打過ぎた。ところが四月十一日に至って、余は図《はか》らずも上田万年《うえだかずとし》、芳賀矢一《はがやいち》二博士から好意的の訪問を受けた。二博士が余の意見を当局に伝えたる結果として、同日午後に、余はまた福原《ふくはら》専門学務局長の来訪を受けた。局長は余に文部省の意志を告げ、余はまた局長に余の所見を繰返して、相互の見解の相互に異なるを遺憾《いかん》とする旨を述べ合って別れた。
翌十二日に至って、福原局長は文部省の意志を公けにするため、余に左《さ》の書翰を送った。実は二カ月前に、余が局長に差出した辞退の申し出に対する返事なのである。
「復啓二月二十一日付を以て学位授与の儀《ぎ》御辞退|相成《あいなり》
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