たき趣《おもむきの》御申出|相成《あいなり》候処《そうろうところ》已《すで》に発令済《はつれいずみ》につき今更《いまさら》御辞退の途《みち》もこれなく候間《そうろうあいだ》御了知相成たく大臣の命により別紙|学位記《がくいき》御返付《おかえしつけ》かたがたこの段|申進《もうしすすめ》候《そうろう》敬具」
余もまた余の所見を公けにするため、翌十三日付を以て、下に掲ぐる書面を福原局長に致した。
「拝啓学位辞退の儀は既に発令後の申出にかかる故《ゆえ》、小生《しょうせい》の希望通り取計らいかぬる旨《むね》の御返事を領《りょう》し、再応《さいおう》の御答を致します。
「小生は学位授与の御通知に接したる故に、辞退の儀を申し出でたのであります。それより以前に辞退する必要もなく、また辞退する能力もないものと御考えにならん事を希望致します。
「学位令の解釈上、学位は辞退し得べしとの判断を下すべき余地あるにもかかわらず、毫《ごう》も小生の意志を眼中《がんちゅう》に置く事なく、一図《いちず》に辞退し得ずと定められたる文部大臣に対し小生は不快の念を抱くものなる事を茲《ここ》に言明致します。
「文部大臣が文部大
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