田山花袋君に答う
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)逐《お》うて

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(例)拵える[#「拵える」に丸傍点]
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 本月の「趣味」に田山花袋君が小生に関してこんな事を云われた。――「夏目漱石君はズーデルマンの『カッツェンステッヒ』を評して、そのますます序を逐《お》うて迫り来るがごとき点をひどく感服しておられる。氏の近作『三四郎』はこの筆法で往くつもりだとか聞いている。しかし云々」
 小生はいまだかつて『三四郎』をズーデルマンの筆法で書くと云った覚えなし。誰かの話し違か、花袋君の聞違だろう。疎忽《そこつ》なものが花袋君の文を読むと、小生がズーデルマンの真似《まね》でもしているようで聞苦しい。『三四郎』は拙作かも知れないが、模擬踏襲《もぎとうしゅう》の作ではない。
 花袋君は六年前にカッツェンステッヒを翻訳せられて、翻訳の当時は非常に感服せられたが、今日から見ると、作為の痕迹《こんせき》ばかりで、全篇作者の拵《こしら》えものに過ぎないと貶《へん》せられた。褒貶《ほうへん》は固《もと》より花袋君の自
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