合|理《り》的でもあつて、今の独乙には無効で不必要で不合理なものかも知れないといふ事《こと》に帰着する。
 然しながら彼は云つた。――
「ヰリアム帝は独乙に祖国を与へたるのみならず、より平|衡《こう》を得たる又より合理的なる支配の下に文明世|界《かい》を置いた。全世界を健全にするは独乙の事業なりと云つた詩人ガイベルの言葉《ことば》は今に実現せられるだらう」
 して見るとトライチケは、独乙が全欧のみならず、全世界を征服する迄、此軍国主義国家主義で押し通す積《つもり》だつたかも知れない。然しながら、我々人類が悉《〔ことごと〕》く独乙に征服された時、我々は其報酬として独乙から果して何を給与されるのだらう。独乙もトライチケもまづ其所《そこ》から説明してかゝらなければならない。



底本:「漱石全集 第十六巻」岩波書店
   1995(平成7)年4月19日発行
底本の親本:
   「点頭録六」「点頭録七」「点頭録八」「点頭録九」については原稿(岩波書店蔵)。
   それ以外については「東京朝日新聞」。
   掲載日は第一回から第五回までが、1916(大正5)年1月1日、10、12、13、14日
前へ 次へ
全33ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング