入社の辞
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)這入《はい》ったら

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)二三十年|辛抱《しんぼう》すれば
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 大学を辞して朝日新聞に這入《はい》ったら逢《あ》う人が皆驚いた顔をして居る。中には何故《なぜ》だと聞くものがある。大決断だと褒《ほ》めるものがある。大学をやめて新聞屋になる事が左程《さほど》に不思議な現象とは思わなかった。余が新聞屋として成功するかせぬかは固《もと》より疑問である。成功せぬ事を予期して十余年の径路を一朝に転じたのを無謀だと云って驚くなら尤《もっとも》である。かく申す本人すら其の点に就《つい》ては驚いて居る。然《しか》しながら大学の様な栄誉ある位置を抛《なげう》って、新聞屋になったから驚くと云うならば、やめて貰《もら》いたい。大学は名誉ある学者の巣を喰っている所かも知れない。尊敬に価する教授や博士が穴籠《あなごも》りをしている所かも知れない。二三十年|辛抱《しんぼう》すれば勅任官になれる所かも知れない。其他色々|便宜《べんぎ》のある所かも知れない。成程《なるほど》そ
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