いつ迄《まで》も噛《かじ》り付き、獅噛《しが》みつき、死んでも離れない積《つもり》でもあった。所へ突然朝日新聞から入社せぬかと云う相談を受けた。担任の仕事はと聞くと只《ただ》文芸に関する作物を適宜《てきぎ》の量に適宜の時に供給すればよいとの事である。文芸上の述作を生命とする余にとって是程《これほど》難有《ありがた》い事はない、是程心持ちのよい待遇はない、是程名誉な職業はない、成功するか、しないか抔《など》と考えて居られるものじゃない。博士や教授や勅任官|抔《など》の事を念頭にかけて、うんうん、きゅうきゅう云っていられるものじゃない。
大学で講義をするときは、いつでも犬が吠《ほ》えて不愉快であった。余の講義のまずかったのも半分は此犬の為めである。学力が足らないからだ抔《など》とは決して思わない。学生には御気の毒であるが、全く犬の所為《せい》だから、不平は其方《そちら》へ持って行って頂きたい。
大学で一番心持ちの善《よ》かったのは図書館の閲覧室で新着の雑誌|抔《など》を見る時であった。然し多忙で思う様に之《これ》を利用する事が出来なかったのは残念|至極《しごく》である。しかも余が閲覧室
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