》らえたんだぜ」
「しかし四つとも食う気かい」
「あしたの饂飩《うどん》が気になるから、このうち二個は携帯して行《い》こうと思うんだ」
「うん、そんなら、よそう」と圭さんはすぐ断念する。
「よすとなると気の毒だから、まあ上げよう。本来なら剛健党が玉子なんぞを食うのは、ちと贅沢《ぜいたく》の沙汰だが、可哀想《かわいそう》でもあるから、――さあ食うがいい。――姉さん、この恵比寿はどこでできるんだね」
「おおかた熊本でござりまっしょ」
「ふん、熊本製の恵比寿か、なかなか旨《うま》いや。君どうだ、熊本製の恵比寿は」
「うん。やっぱり東京製と同じようだ。――おい、姉さん、恵比寿はいいが、この玉子は生《なま》だぜ」と玉子を割った圭さんはちょっと眉をひそめた。
「ねえ」
「生だと云うのに」
「ねえ」
「何だか要領を得ないな。君、半熟を命じたんじゃないか。君のも生か」と圭さんは下女を捨てて、碌さんに向ってくる。
「半熟を命じて不熟を得たりか。僕のを一つ割って見よう。――おやこれは駄目だ……」
「うで玉子か」と圭さんは首を延《のば》して相手の膳《ぜん》の上を見る。
「全熟だ。こっちのはどうだ。――うん、
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