やめなかった。彼は最後に叫んだ。
「分らない」
その声は忽《たちま》ちせせら笑った。
「分らないのじゃあるまい。分っていても、其所《そこ》へ行けないのだろう。途中で引懸っているのだろう」
「己《おれ》のせいじゃない。己のせいじゃない」
健三は逃げるようにずんずん歩いた。
賑《にぎ》やかな通りへ来た時、迎年の支度に忙しい外界は驚異に近い新らしさを以て急に彼の眼を刺撃《しげき》した。彼の気分は漸《ようや》く変った。
彼は客の注意を惹《ひ》くために、あらゆる手段を尽して飾り立てられた店頭《みせさき》を、それからそれと覗《のぞ》き込んで歩いた。或時は自分と全く交渉のない、珊瑚樹《さんごじゅ》の根懸《ねがけ》だの、蒔絵《まきえ》の櫛笄《くしこうがい》だのを、硝子越《ガラスごし》に何の意味もなく長い間眺めていた。
「暮になると世の中の人はきっと何か買うものかしら」
少なくとも彼自身は何にも買わなかった。細君も殆《ほと》んど何にも買わないといってよかった。彼の兄、彼の姉、細君の父、どれを見ても、買えるような余裕のあるものは一人もなかった。みんな年を越すのに苦しんでいる連中《れんじゅう》ばか
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