、人間はそれで好《い》いと思っているんだろう」
「だって役に立たなくっちゃ何にもならないじゃありませんか」
 生憎《あいにく》細君の父は役に立つ男であった。彼女の弟もそういう方面にだけ発達する性質《たち》であった。これに反して健三は甚だ実用に遠い生れ付であった。
 彼には転宅の手伝いすら出来なかった。大掃除の時にも彼は懐手《ふところで》をしたなり澄ましていた。行李《こうり》一つ絡《から》げるにさえ、彼は細紐《ほそびき》をどう渡すべきものやら分らなかった。
「男のくせに」
 動かない彼は、傍《はた》のものの眼に、如何《いか》にも気の利かない鈍物のように映った。彼はなおさら動かなかった。そうして自分の本領を益《ますます》反対の方面に移して行った。
 彼はこの見地から、昔し細君の弟を、自分の住んでいる遠い田舎《いなか》へ伴《つ》れて行って教育しようとした。その弟は健三から見ると如何にも生意気であった。家庭のうちを横行して誰にも遠慮会釈がなかった。ある理学士に毎日自宅で課業の復習をしてもらう時、彼はその人の前で構わず胡坐《あぐら》をかいた。またその人の名を何君何君と君づけに呼んだ。
「あれじゃ
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