かしてくれなくっちゃ困る」
「そう他《ひと》にのし懸って来たって仕方がありません。今の私《わたくし》にはそれだけの事をしなければならない因縁《いんねん》も何もないんだから」
 島田は凝《じっ》と健三の顔を見た。半ば探りを入れるような、半ば弱いものを脅かすようなその眼付は、単に相手の心を激昂《げっこう》させるだけであった。健三の態度から深入《ふかいり》の危険を知った島田は、すぐ問題を区切って小さくした。
「永い間の事はまた緩々《ゆるゆる》御話しをするとして、じゃこの急場だけでも一つ」
 健三にはどういう急場が彼らの間に持ち上っているのか解らなかった。
「この暮を越さなくっちゃならないんだ。どこの宅《うち》だって暮になりゃ百と二百と纏《まとま》った金の要《い》るのは当り前だろう」
 健三は勝手にしろという気になった。
「私にそんな金はありませんよ」
「笑談《じょうだん》いっちゃいけない。これだけの構《かまえ》をしていて、その位の融通が利かないなんて、そんなはずがあるもんか」
「あってもなくっても、ないからないというだけの話です」
「じゃいうが、御前の収入は月に八百円あるそうじゃないか」
 
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