「十のものに十五の返しをするったって、高が五十銭が七十五銭になるだけじゃないか」
「それで沢山なんでしょう。そういう人たちは」
他《ひと》から見ると酔興としか思われないほど細かなノートばかり拵《こしら》えている健三には、世の中にそんな人間が生きていようとさえ思えなかった。
「随分厄介な交際《つきあい》だね。だいち馬鹿々々しいじゃないか」
「傍《はた》から見れば馬鹿々々しいようですけれども、その中に入ると、やっぱり仕方がないんでしょう」
健三はこの間よそから臨時に受取った三十円を、自分がどう消費してしまったかの問題について考えさせられた。
今から一カ月余り前、彼はある知人に頼まれてその男の経営する雑誌に長い原稿を書いた。それまで細かいノートより外に何も作る必要のなかった彼に取ってのこの文章は、違った方面に働いた彼の頭脳の最初の試みに過ぎなかった。彼はただ筆の先に滴《したた》る面白い気分に駆られた。彼の心は全く報酬を予期していなかった。依頼者が原稿料を彼の前に置いた時、彼は意外なものを拾ったように喜んだ。
兼《かね》てからわが座敷の如何《いか》にも殺風景なのを苦に病んでいた彼は、す
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