《みわけ》のつかない彼にもこういう懸念が湧《わ》いた。彼は忽ち出産の用意が戸棚の中《うち》に入れてあるといった細君の言葉を思い出した。そうしてすぐ自分の後部《うしろ》にある唐紙《からかみ》を開けた。彼は其所から多量の綿を引き摺《ず》り出した。脱脂綿という名さえ知らなかった彼は、それをむやみに千切《ちぎ》って、柔かい塊の上に載せた。

     八十一

 その内|待《まち》に待った産婆が来たので、健三は漸《ようや》く安心して自分の室《へや》へ引き取った。
 夜《よ》は間もなく明けた。赤子《あかご》の泣く声が家の中の寒い空気を顫《ふる》わせた。
「御安産で御目出とう御座います」
「男かね女かね」
「女の御子さんで」
 産婆は少し気の毒そうに中途で句を切った。
「また女か」
 健三にも多少失望の色が見えた。一番目が女、二番目が女、今度生れたのもまた女、都合三人の娘の父になった彼は、そう同じものばかり生んでどうする気だろうと、心の中《うち》で暗《あん》に細君を非難した。しかしそれを生ませた自分の責任には思い到《いた》らなかった。
 田舎《いなか》で生まれた長女は肌理《きめ》の濃《こま》やかな
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