らなかった。そういう男の娘と夫婦になっているのが恥ずかしいなどとは更に思わなかった。しかし細君に対しての健三は、この点に関して殆《ほと》んど無言であった。細君は時々彼に向っていった。――
「妾《わたし》、どんな夫でも構いませんわ、ただ自分に好くしてくれさえすれば」
「泥棒でも構わないのかい」
「ええええ、泥棒だろうが、詐欺師だろうが何でも好《い》いわ。ただ女房を大事にしてくれれば、それで沢山なのよ。いくら偉い男だって、立派な人間だって、宅《うち》で不親切じゃ妾にゃ何にもならないんですもの」
実際細君はこの言葉通りの女であった。健三もその意見には賛成であった。けれども彼の推察は月の暈《かさ》のように細君の言外まで滲《にじ》み出した。学問ばかりに屈託している自分を、彼女がこういう言葉でよそながら非難するのだという臭《におい》がどこやらでした。しかしそれよりも遥かに強く、夫の心を知らない彼女がこんな態度で暗《あん》に自分の父を弁護するのではないかという感じが健三の胸を打った。
「己《おれ》はそんな事で人と離れる人間じゃない」
自分を細君に説明しようと力《つと》めなかった彼も、独りで弁解の
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