土らしかった。
 彼は或人の名を挙げた。
「向うでは貴方《あなた》を知ってるといいますが、貴方も知ってるんでしょうね」
「知っています」
 健三は昔し学校にいた時分にその男を知っていた。けれども深い交際《つきあい》はなかった。卒業して独乙《ドイツ》へ行って帰って来たら、急に職業がえをして或《ある》大きな銀行へ入ったとか人の噂《うわさ》に聞いた位より外に、彼の消息は健三に伝わっていなかった。
「まだ銀行にいるんですか」
 細君の父は点頭《うなず》いた。しかし二人がどこでどう知り合になったのか、健三には想像さえ付かなかった。またそれを詳しく訊《き》いて見たところが仕方がなかった。要点はただその人が金を貸してくれるか、くれないかの問題にあった。
「で当人のいうには、貸しても好い、好いが慥《たしか》な人を証人に立ててもらいたいとこういうんです」
「なるほど」
「じゃ誰を立てたら好いのかと聞くと、貴方ならば貸しても好いと、向うでわざわざ指名した訳なんです」
 健三は自分自身を慥なものと認めるには躊躇《ちゅうちょ》しなかった。しかし自分自身の財力に乏しい事も職業の性質上|他《ひと》に知れていなけれ
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