、朝はきっと肌抜《はだぬぎ》になって手水《ちょうず》を遣《つか》った。寒い風が吹こうが冷たい雨が降ろうが決してやめなかった。
「そんな心細い事をいわずに、出来るだけ養生をしたら好いでしょう」
「養生はしているよ。健ちゃんから貰《もら》う御小遣の中で牛乳だけはきっと飲む事に極《き》めているんだから」
田舎《いなか》ものが米の飯を食うように、彼女は牛乳を飲むのが凡《すべ》ての養生ででもあるかのような事をいった。日に日に損なわれて行くわが健康を意識しつつ、この姉に養生を勧める健三の心の中《うち》にも、「他事《ひとごと》じゃない」という馬鹿らしさが遠くに働らいていた。
「私《わたし》も近頃は具合が悪くってね。ことによると貴方《あなた》より早く位牌になるかも知れませんよ」
彼の言葉は無論根のない笑談《じょうだん》として姉の耳に響いた。彼もそれを承知の上でわざと笑った。しかし自《みずか》ら健康を損いつつあると確《たしか》に心得ながら、それをどうする事も出来ない境遇に置かれた彼は、姉よりもかえって自分の方を憐《あわれ》んだ。
「己のは黙って成し崩しに自殺するのだ。気の毒だといってくれるものは一人
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