想像していた御常とは全く変っているその質朴な風采《ふうさい》が、島田よりも遥かに強く彼を驚ろかした。
 彼女の態度も島田に比べるとむしろ反対であった。彼女はまるで身分の懸隔でもある人の前へ出たような様子で、鄭寧《ていねい》に頭を下げた。言葉遣も慇懃《いんぎん》を極《きわ》めたものであった。
 健三は小供の時分|能《よ》く聞かされた彼女の生家《さと》の話を思い出した。田舎《いなか》にあったその住居《すまい》も庭園も、彼女の叙述によると、善を尽し美を尽した立派なものであった。床《ゆか》の下を水が縦横に流れているという特色が、彼女の何時でも繰り返す重要な点であった。南天《なんてん》の柱――そういう言葉もまだ健三の耳に残っていた。しかし小さい健三はその宏大《こうだい》な屋敷がどこの田舎にあるのかまるで知らなかった。それから一度も其所《そこ》へ連れて行かれた覚がなかった。彼女自身も、健三の知っている限り、一度も自分の生れたその大きな家へ帰った事がなかった。彼女の性格を朧気《おぼろげ》ながら見抜くように、彼の批評眼がだんだん肥《こ》えて来た時、彼はそれもまた彼女の空想から出る例の法螺《ほら》ではな
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