「その賞与だって、そっくり私《あたし》の手に渡してくれるんじゃないんだからね。だけど近頃じゃ私たち二人はまあ隠居見たようなもので、月々食料を彦《ひこ》さんの方へ遣《や》って賄《まか》なってもらってるんだから、少しは楽にならなけりゃならない訳さ」
養子と経済を別々にしながら一所の家《うち》に住んでいた姉夫婦は、自分たちの搗《つ》いた餅《もち》だの、自分たちの買った砂糖だのという特別な食物《くいもの》を有《も》っていた。自分たちの所へ来た客に出す御馳走《ごちそう》などもきっと自分たちの懐中から払う事にしているらしかった。健三は殆《ほと》んど考えの及ばないような眼付をして、極端に近い一種の個人主義の下に存在しているこの一家の経済状態を眺めた。しかし主義も理窟も有たない姉にはまたこれほど自然な現象はなかったのである。
「健ちゃんなんざ、こんな真似《まね》をしなくっても済むんだから好いやあね。それに腕があるんだから、稼ぎさいすりゃいくらでも欲しいだけの御金は取れるしさ」
彼女のいう事を黙って聞いていると、島田などはどこへ行ったか分らなくなってしまいがちであった。それでも彼女は最後に付け加えた
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