っていた。
彼のノートもまた暑苦しいほど細かな字で書き下《くだ》された。蠅《はえ》の頭というより外に形容のしようのないその草稿を、なるべくだけ余計|拵《こしら》えるのが、その時の彼に取っては、何よりの愉快であった。そして苦痛であった。また義務であった。
巣鴨《すがも》の植木屋の娘とかいう下女は、彼のために二、三の盆栽を宅から持って来てくれた。それを茶の間の縁《えん》に置いて、彼が飯を食う時給仕をしながら色々な話をした。彼は彼女の親切を喜こんだ。けれども彼女の盆栽を軽蔑《けいべつ》した。それはどこの縁日へ行っても、二、三十銭出せば、鉢ごと買える安価な代物《しろもの》だったのである。
彼は細君の事をかつて考えずにノートばかり作っていた。彼女の里へ顔を出そうなどという気はまるで起らなかった。彼女の病気に対する懸念も悉《ことごと》く消えてしまった。
「病気になっても父母が付いているじゃないか。もし悪ければ何とかいって来るだろう」
彼の心は二人一所にいる時よりも遥《はるか》に平静であった。
細君の関係者に会わないのみならず、彼はまた自分の兄や姉にも会いに行かなかった。その代り向うでも来
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