老人の一生と大した変りはないかも知れないという気が強くした。
その時島田は洋燈の螺旋《ねじ》を急に廻したと見えて、細長い火屋の中が、赤い火で一杯になった。それに驚ろいた彼は、また螺旋を逆に廻し過ぎたらしく、今度はただでさえ暗い灯火《あかり》をなおの事暗くした。
「どうもどこか調子が狂ってますね」
健三は手を敲《たた》いて下女に新しい洋燈を持って来さした。
四十九
その晩の島田はこの前来た時と態度の上において何の異なる所もなかった。応対にはどこまでも健三を独立した人と認めるような言葉ばかり使った。
しかし彼はもう先達《せんだっ》ての掛物についてはまるで忘れているかの如くに見えた。李鴻章《りこうしょう》の李の字も口にしなかった。復籍の事はなお更であった。噫《おくび》にさえ出す様子を見せなかった。
彼はなるべくただの話をしようとした。しかし二人に共通した興味のある問題は、どこをどう探しても落ちているはずがなかった。彼のいう事の大部分は、健三に取って全くの無意味から余り遠く隔《へだた》っているとも思えなかった。
健三は退屈した。しかしその退屈のうちには一種の注意が徹《
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