いって、草花の模様だけを不透明に擦《す》った丸い蓋《かさ》の隙間を覗《のぞ》き込んだ。
健三の記憶にある彼は、こんな事を能《よ》く気にするという点において、頗《すこぶ》る几帳面《きちょうめん》な男に相違なかった。彼はむしろ潔癖であった。持って生れた倫理上の不潔癖と金銭上の不潔癖の償いにでもなるように、座敷や縁側の塵《ちり》を気にした。彼は尻《しり》をからげて、拭《ふき》掃除をした。跣足《はだし》で庭へ出て要《い》らざる所まで掃いたり水を打ったりした。
物が壊れると彼はきっと自分で修復《なお》した。あるいは修復そうとした。それがためにどの位な時間が要っても、またどんな労力が必要になって来ても、彼は決して厭《いと》わなかった。そういう事が彼の性《しょう》にあるばかりでなく、彼には手に握った一銭銅貨の方が、時間や労力よりも遥かに大切に見えたのである。
「なにそんなものは宅《うち》で出来る。金を出して頼むがものはない。損だ」
損をするという事が彼には何よりも恐ろしかった。そうして目に見えない損はいくらしても解らなかった。
「宅《うち》の人はあんまり正直過ぎるんで」
御藤《おふじ》さんは
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