ほど若くもなかった。
「御幾年《おいくつ》でしたかね」と細君が訊《き》いた。
「御由ですか。御由は御住《おすみ》さんと一つ違ですよ」
「まだ御若いのね」
 兄はそれには何とも答えずに、先刻から膝《ひざ》の上に置いた書類の帯を急に解き始めた。
「まだこんなものが這入《はい》っていたよ。これも君にゃ関係のないものだ。さっき見て僕もちょいと驚ろいたが、こら」
 彼はごたごたした故紙の中から、何の雑作もなく一枚の書付を取り出した。それは喜代子《きよこ》という彼の長女の出産届の下書であった。「右者《みぎは》本月《ほんげつ》二十三日午前十一時五十分|出生《しゅっしょう》致し候《そろ》」という文句の、「本月二十三日」だけに棒が引懸けて消してある上に、虫の食った不規則な線が筋違《すじかい》に入っていた。
「これも御父《おとっ》さんの手蹟《て》だ。ねえ」
 彼はその一枚の反故《ほご》を大事らしく健三の方へ向け直して見せた。
「御覧、虫が食ってるよ。尤《もっと》もそのはずだね。出産届ばかりじゃない、もう死亡届まで出ているんだから」
 結核で死んだその子の生年月を、兄は口のうちで静かに読んでいた。

   
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