抜けた指先で、一度解きかけた糸の結び目を元の通りに締めた。
「今ちょっと見たらこの中には君に不必要なものが紛れ込んでいるね」
「そうですか」
 この大事そうにしまい込まれてあった書付に、兄が長い間眼を通さなかった事を健三は知った。兄はまた自分の弟がそれほど熱心にそれを調べていない事に気が付いた。
「御由《およし》の送籍願が這入ってるんだよ」
 御由というのは兄の妻《さい》の名であった。彼がその人と結婚する当時に必要であった区長宛の願書が其所《そこ》から出て来《き》ようとは、二人とも思いがけなかった。
 兄は最初の妻《さい》を離別した。次の妻に死なれた。その二度目の妻が病気の時、彼は大して心配の様子もなく能《よ》く出歩いた。病症が悪阻《つわり》だから大丈夫という安心もあるらしく見えたが、容体《ようだい》が険悪になって後も、彼は依然としてその態度を改める様子がなかったので、人はそれを気に入らない妻《つま》に対する仕打とも解釈した。健三もあるいはそうだろうと思った。
 三度目の妻《さい》を迎える時、彼は自分から望みの女を指名して父の許諾を求めた。しかし弟には一言《いちごん》の相談もしなかった
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